今月のいきものバックナンバー

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2012年3月 今月のいきものは、番外編(グループ演習で活躍するいきもの)でセイヨウミツバチを紹介します。

セイタカアワダチソウに採餌に来たセイヨウミツバチの写真

セイヨウミツバチはハチ目(膜翅目)・ミツバチ科・ミツバチ属に属する昆虫である。日本には古来より居るニホンミツバチと、明治時代に養蜂用に移入されたセイヨウミツバチが居る。セイヨウミツバチは真社会性昆虫であり、コロニーを形成し、高度な社会構造を持つ。1つのコロニーは、1匹の女王蜂と3~4万匹の働き蜂(すべてメス)、数百匹のオス蜂で構成されている。働き蜂の一生はおよそ1カ月で、羽化後の日齢に応じた分業(齢差分業)を示す。分業は主に次の2つに分けられる。①育児蜂(羽化後2~3週までの若齢の働き蜂):巣内で幼虫や女王蜂の世話・巣の掃除や建設・蜂蜜作りを担当する。②採餌蜂(羽化後2~3週以降の老齢の働き蜂):巣外から花粉・花蜜を集める採餌活動を担当する。ミツバチは花蜜と花粉を主要な食物源として利用する。採餌蜂が巣に持ち帰った花蜜を、育児蜂が半消化・濃縮し、巣に蓄えたものが蜂蜜である。また、花粉はミツバチにとって重要なタンパク質源であり、採餌蜂が足に団子状にまとめて持ち帰ることから、花粉団子と呼ばれる。 (木矢 剛智 2年:市川、角倉、金子、鎌田、帖地)

 

2012年2月 今月のいきものは、番外編(グループ演習で活躍するいきもの)でハマボッスを紹介します。

写真. 播種後約3週間のハマボッスの実生.

生物学コース2年生のグループ演習という授業で、私たちは"塩生植物ハマボッスの耐塩性メカニズム"について調べました。実際にハマボッスの種子を海岸から採集して、発芽させ、塩濃度を変えた際の実生における形態的特徴を観察しました。高塩濃度では、エピクチクラワックスと思われる表皮外壁の発達や、塩毛と思われるような、成体で見られる耐塩性の形態的特徴を積極的に獲得していることがわかりました。ハマボッスはとても発芽率が良く、2年目ではきれいな花を咲かせるようです。みなさん是非育ててみませんか?興味のある方は種子を差し上げますよ!(小藤 累美子 2年:池嶋、小浜)

 

 

2011年3月 今月のいきものは、番外編(グループ演習で活躍するいきもの)で磁性細菌を紹介します。

写真. 金沢市内の池より採集された磁性細菌の透過型電子顕微鏡写真。細胞内に直鎖状に並ぶ黒い顆粒が磁気微粒子.

私たち、2年生4名は生物学コース2年のカリキュラムであるグループ演習を、「新しい磁性細菌の探索」というテーマで行いました。磁性細菌とは磁気に反応して動く細菌です。この磁性細菌は細胞内にマグネトソームという磁気微粒子をもっていて、これが磁気を感知する役割を果たしています。この磁性細菌が身近な環境にいるのではないかと考え、金沢市内の池と金沢大学角間キャンパス内にある池から磁性細菌の採集を行いました。池から底泥を採集し、磁石を使って磁性細菌を集めたところ、磁石に反応する細菌を見つけることができました。写真は金沢市内の池から採集された磁性細菌の透過型電子顕微鏡写真です。細胞内に黒い顆粒状の磁気微粒子が観察できます。グループ演習では、顕微鏡観察のほかに、採集した磁性細菌の16s rRNA遺伝子を用いた系統解析を試み、バクテリアの分子系統解析の研究法について実習しました。(田岡 東、2年:赤塚、大場、前田、南出)

 

 

2011年2月 今月のいきものは、番外編(グループ演習で活躍するいきもの)でクマムシを紹介します。

写真. 金沢大学角間キャンパスで採集した異クマムシ綱の一種(写真をクリックすると動画を再生します).

私たち生物学コース2年5名のグループは身近な場所にどのようなクマムシが生息しているかについて興味をもち、グループ演習のテーマとして「金沢大学クマムシ生息キャンパスマップ」の作成に取り組みました。クマムシとは、緩歩動物門に属し、体長は0.5mmほど、4対8脚のずんぐりとした脚でゆっくり歩き、乾燥するとタルのようなかたちになって様々な環境ストレスに耐えられる状態になる、といった特徴をもった生物です。海や陸のありとあらゆる場所に生息していると言われています。この動画は実際に私たちが金沢大学キャンパスから採集した異クマムシ綱の一種です。(坂本 敏夫 2年:上西、角谷、寺島、原、堀内) 

 

 

2011年1月 今月のいきものは、番外編(グループ演習で活躍するいきもの)で1月に開花させた桜を紹介します。

写真. 桜の園芸品種「市原虎の尾」Cerasus lannesiana 'Ichihara' Ohwi (2011.1.11金沢大学にて撮影)

生物学コースの2年次のカリキュラムに「グループ演習」があります。数人でグループをつくり、教員の協力の下で半年間自由研究を行う、というものです。写真は、奥山、小林、枡田の3名からなるグループが1月に開花させた桜の花です。桜の花芽は、夏から秋にかけて形成され、冬芽の中で冬を越し、翌年の春に伸長し開花することがわかっています。30〜50枚の花弁をつける八重咲き品種「市原虎の尾」の冬芽を10月に採集し、内部を観察したところ、花芽の形成が終了していることがわかりました。冬芽をつけた枝を、冷蔵庫に入れて低温処理による休眠打破を行った後、お湯につけ、ジベレリンを散布するという、一連の開花処理を行い、暖かい室内で保存し開花させました。ちなみにグループの研究内容は桜の開花処理とは関係ありません。それについてはまたあらためて紹介します。(小藤 累美子) 

 

 

2010年12月 今月のいきものは、緑膿菌です。

写真. 緑膿菌Pseudomonas aeruginosa (http://www.pseudomonas.com/p_aerug.jsp)より引用

緑膿菌Pseudomonas aeruginosa は日和見感染性の病原菌であり、その感染症は本細菌のバイオフィルム形成能や薬剤排出ポンプ、クオラムセンシング機構等の存在により難治性となり、慢性化することが多い。特に,薬剤耐性を獲得した多剤耐性緑膿菌は,医学上大きな問題となっている.
 緑膿菌は嫌気呼吸の一つである脱窒(硝酸イオンを最終電子受容体とする呼吸形式)で生育に必要なエネルギーを獲得できることからバイオフィルムを形成し、酸素が無い環境でも生きることができる。これまでの研究により、緑膿菌の脱窒は、硝酸塩還元酵素、亜硝酸塩還元酵素、一酸化窒素還元酵素、亜酸化窒素(N2O)還元酵素の4種類の酵素が関与していることが知られており,最近,一酸化窒素還元酵素の立体構造が解明され,この酵素を標的とする薬剤の開発が期待されている。(福森 義宏)

  

 

2010年9月 今月のいきものは、ボウフラです。

写真. トラフカクイカ(虎斑蚊食い蚊)Culex (Lutzia) halifaxi Theobald

口器(左写真)が捕食向きにシャープになっている. 成虫になるまでに他種のボウフラを300個体くらい食べる.

空き缶やバケツに雨水がはいり、いつのまにかいるボウフラはハエ目蚊科の幼虫時代の総称です。水表面に浮いているようにみえればハマダラカ、ぶらさがっていたらナミカです。どちらも表面張力を利用して水面からぶら下がっています。種類を調べるには顕微鏡が必要でスライドにマウントします。
幼虫の毛には名称がついていて、それを調べるとどの種類かわかります。例えばシナハマラダカはたくさん日本にいますがウシから血を吸うのでマラリアは運びません。日本だと沖縄にしかいないコガタハマダラカは人からも吸血するので、石垣島に強制疎開した人々を多数マラリアで死亡させました。ボウフラを食べてくれるボウフラもいてカクイカといいます。(都野 展子)  

 

2010年8月 今月のいきものは、大腸菌です。

寒天培地に蛍光を放つ大腸菌が生育している写真です

写真. 寒天培地上で生育した大腸菌(Escherichia coli

右下の区画の大腸菌は、GFPをつくっているため紫外光下で緑色蛍光を発している.

大腸菌は、単細胞の原核生物であり、恐らくこれまでに最も詳しく調べられている生き物だろう。病原性を示す大腸菌もいるが、非病原性の大腸菌はモデル生物として分子生物学の黎明期よりその発展を支えてきた。1970年頃にノーベル賞受賞者のジャック・モノーが「大腸菌にあてはまることは、象にもあてはまる」と宣言したことからもわかるように、生命科学の最先端の情報を提供し続けた。現在でもいくつかの研究分野ではその勢いは衰えていないが、他のいくつかの分野では研究対象としての役割を終えて実験道具のような扱いを受けている。時代とともに大腸菌の立場も変遷してきたが、今後も分子生物学の発展のために最も活躍する生き物の一つであり続けるだろう。(金森 正明)  

 

 

2010年7月 今月のいきものは、番外編で野外で見つけたヘラオオバコの変異体を紹介します。

ヘラオオバコの野生型と変異型の写真。変異型はぼこぼこした大きな花序をつけています。

写真. 左から、ヘラオオバコ(Plantago lanceolata)の全体、花序の拡大、変異型の花序の拡大、全体.

ヘラオオバコ: 欧州原産。江戸末期に渡来したと言われる帰化植物。日本全土に見られる。花序が長短或は広狭様々に枝分かれした奇形と思われるものが報告されていて、エダウチヘラオオバコ (f. composita)と言う(文献は文末参照)。(梅林 正芳)

右写真の変異体は、通常のヘラオオバコと混ざって10株以上生えていました。ヘラオオバコの花序は軸のまわりに花が螺旋状につくのですが、右写真の株では花が花序に変化し、軸のまわりに花序が螺旋状についています。モデル植物であるシロイヌナズナで、花序茎頂を花芽に転換させる機能を持つLEAFY遺伝子が壊れると、花が花序に転換する(結果として花序の枝分かれが繰り返す)ことが知られています。このヘラオオバコ変異体も、相同な遺伝子が壊れているのではないかと考えています。(小藤 累美子)

 

文献
清水建美,1992.エダウチヘラオオバコ 植物地理・分類研究 40巻 112頁
長田武正,1972. 「日本帰化植物図鑑」 54頁 北隆館 東京

 

 

2010年6月 今月のいきものは、ナミアゲハです。

黒黄色オレンジ色のまざった鮮やかな羽を持つ蝶が、羽を閉じて指の上にとまっている写真です

写真. ナミアゲハ(Papilio xuthus)の成虫

ナミアゲハ(Papilio xuthus)は日本全土に生息する、いわゆる“アゲハチョウ”として知られている一般的なチョウです。多くの人は、“チョウ”と聞けば、ヒラヒラと優雅に舞う姿を思い浮かべますが、その幼虫は白と黒のまだら模様をしており、敵から身を守るために擬態しているのか、その姿はまるで鳥の糞のような外観です。4齢までをその姿で過ごし、脱皮して5齢(終齢)幼虫になると一転してきれいな黄緑色となり、その後、蛹を経て成虫へと羽化し、優雅に羽ばたいていくのです。このよう少しずつ成長し,大きく形態を変化させていくのですが、その時、体内では様々なことが起きています。私たちは蛹の翅に存在する、温度によってその性質を変える蛋白質について機能・構造を分子レベルで解明する研究を行っています。(福森 義宏)               

 

2009年5月 今月のいきものは、ハツカネズミです。

黒い体毛のマウスの写真です

写真. マウス(ハツカネズミ) Mus musculus  (Jackson lab.のウェブサイトより引用)

生物学の研究で使われるげっ歯類は大体マウス(Mus musculus)とラット(Rattus norvegicus)の2種である。マウスは一頭約30gまでになる小さい方。名前の通り受精から約20日後に産まれ(5-6匹/腹)、それから3-4週で離乳、6-8週位で性的に成熟し交配が可能になる。またヒトとマウスは断然違う生物である筈なのに(?)、2種のゲノム中の遺伝子のレパートリーはほぼ同様であり、そのDNA配列も90%以上相同であることが知られている。遺伝子操作も可能であるため、ヒトを含む哺乳類共通の生命現象(夜行性で、あまり賢くはないという微妙な差異はおくとして)を、遺伝子レベルで調べることができる。まさしくこれらの特徴が現在マウスをモデル生物界のチャンピオンの位置に押し上げている。もちろん実験動物の扱いは最大限の倫理的な配慮がされるよう、各動物施設で厳重に管理されていることは言うまでもない。(程 肇)

 

 

2009年4月 今月のいきものは、タニウツギです。

梅林氏によるタニウツギの花序の植物図

図. タニウツギ Weigela hortensis  スイカズラ科

金沢近郊の日当りの良い崩壊地や林縁に普通に見られる落葉低木です。理学部駐車場の脇に1個体だけ白花があります。庭にはよく似たハコネウツギが植えられていて、花色が最初は白く後に赤くなります。タニウツギは最初からバラ色で色の変わることはありません。「植物図の描き方」という学生実験のスケッチの材料として利用していますが、このような漏斗型の花を描くことはむずかしいようで苦労しています。開花期は5月で、北海道西部から本州日本海側に分布します。(図、文:梅林 正芳)

 

 

2009年3月 今月のいきものは、キンギョです。

金魚の全体を写した写真。ウロコ一枚の大きさは、およそ1mm×3mm。

写真. キンギョ(Carassius auratus L.)

キンギョを動物学的に分類したのは、リンネ(Carl von Linné, 1707-1778)であり、その学名 Carassius auratus L. のL. はリンネのラテン語綴りLINNAEUSの略である。リンネは中国と日本のキンギョをCyprinus auratus(=金色のコイ)として記載したが、後にフナ属が創設され、Carassius auratus(=金色のフナ)となった。キンギョは硬骨魚綱(条鰭亜綱)・コイ目・コイ科・フナ属に分類される。なお原産は中国で、1600-1700年ほど前の晋時代に赤色のフナ(キンギョ)が発見され、それが飼育されるようになったという。中国の長江に生息するフナ(鯽、チイ)がキンギョの直接の先祖とされている。
 私は、キンギョのウロコを用いて実験している。キンギョを含む魚類のウロコは、骨を作る細胞(骨芽細胞)と骨を壊す細胞(破骨細胞)が石灰化した骨基質の上に共存している。そこで私は、独自にウロコの培養・検定方法を開発した。この方法を用いて、ホルモン等の生理活性物質の作用を解析した結果、哺乳類の骨で得られている結果と一致し、骨のモデルとしての有効性が証明された。さらにウロコは、過重力・微小重力・超音波・磁場等の物理的刺激にも非常に感度良く応答することから、国際宇宙ステーション「きぼう」船内実験室第2期利用に向けた候補テーマとして採択された。微小重力下で生じる骨密度低下機構をウロコという骨のモデルを用いて解析する予定である。(JAXAのホームページ参照: http://kibo.jaxa.jp/experiment/theme/jpm02/pick.html)(鈴木 信雄)

 

 

2009年2月 今月のいきものは、カイコです。

写真. カイコ、私の本当の眼はどれ

回顧(カイコ)な逸話

 カイコ(正式学名はBombyx moriでカイコガ)には、こんな逸話(昔話)がある。第二次大戦時、ドイツの潜水艦Uボートが極秘に日本にやってきて、カイコをドイツに持ち帰ったそうだ。昆虫研究者仲間では、そのカイコを使ってブテナント(ノーベル賞受賞者)が生理活性物質を抽出・精製、科学界に大いに貢献したと言い伝えられている。後日、私がドイツの研究者クールマンに会ったとき、そのことを問いただしてみた。真相は、こうであった。極秘裏にUボートで持ち帰ったのは恐らく事実で、そのカイコの一部が研究に使われたのかもしれないけど、ドイツが企んだのは、パラシュートに使う材料として高品質の絹(当時、ナイロンは発明されたばかりで、日本のカイコでつくられた絹糸は高品質きわまりなかった)を大量生産するためであった。時代はあたかも、ドイツ軍機がロンドン上空から兵をパラシュート降下、ナチスはイギリスの支配を目論んでいた。その後の歴史は諸兄の知るところであるが、カイコは現在でも生物科学に貢献している。そして、日本は、その研究の最先端を歩んでいる。(岩見 雅史) 

               

 

2009年1月 今月のいきものは、マナマコです。

写真. マナマコ(通称ナマコ)

写真は臨海実験施設がある九十九湾周辺で採集した個体。北海道から九州、朝鮮半島に分布する。水温15C度以下で、産卵の為、活発に動き回るので、風味が増し、冬が旬。赤褐色が通称『赤ナマコ』、藍黒色が『青ナマコ』。市場価値は赤ナマコが上。七尾湾のナマコは西暦900年前後の“百科事典的”『延喜式』にすでに記載がある。さらに最古の記述は西暦712年の『古事記』にまで遡るが、棘皮動物の中でナマコがどのように進化してきたかは、皮肉なことに不明。一方、再生力の強さや、抗癌、抗血栓、抗炎症、免疫力増強、老化防止などの生理活性物質を有すること、また最近はナマコが活動に要するエネルギーの少なさと“夏眠”することから、“エコな動物”としても注目されている。(笹山 雄一・又多 政博)

 

 

2008年12月 今月のいきものは、キヌガサタケです。

写真. Phallus indusiatus Vent. 和名 キヌガサタケ この名称はWikipediaに載っており属名がPhallusです。これまでDictyophora indusiata (Vent.) Desv.だったのですが、これはシノニム扱いになっていました。属の見直しが行われたようです。

この写真は1993年エチオピアのマジャンギルという焼畑農耕民の1万平方キロのテリトリー全体を見るために1週間ほど森の中を歩いていたときに撮影したものです。この日は前の村から11歳くらいの男の子が確か二人で次の村まで案内してくれました。森を突っ切ると岩がちの草原に出てそこには温泉がわいていました。私はずっとお風呂のない毎日を送っているので、わー温泉だーと感激していますが案内の男の子二人は何の関心も見せず、槍を手にすたすたと通り過ぎてまた森に入ったところでキヌガサタケの群生に出会ったように記憶しています。
 スッポンタケ類のキノコは粘液状のグレバと呼ばれる部分の中に胞子を形成し、またグレバは強い匂いを発し多数の昆虫が集まることから虫媒であると言われてきましたが実証的な研究はほとんど行われていませんでした。私はスッポンタケ類のキヌガサタケを取り上げ、その胞子分散について調べたことがあります。キヌガサタケは京大理学部植物園内に梅雨時になるとわさわさ発生していたからです。(都野 展子)

 

 

2008年11月 今月のいきものは、マムシグサです。

マムシグサは林床に群落をつくります。

写真. マムシグサの群落.

春の野山にひときわ目立つ植物がマムシグサ(サトイモ科)です。この植物は性転換をします。性転換とは一生の間にオスからメス、あるいはメスからオスへと性が変わる現象のことです。マムシグサの場合、個体のサイズが小さいとオス、大きくなるとメスになります。性転換は特殊な現象と思われがちですが、生物界を広く見渡すと、海産の無脊椎動物に広く見られます。マムシグサや一部の魚類の性転換の進化は、サイズ有利性仮説で説明されています。この説の骨子は、オスとメスの繁殖成功がサイズによって異なる時性転換が進化しうる、というものです:つまり、オス・メス間の遺伝子の流れ(繁殖成功)が非対称で、それがサイズに依存して決まる場合、性転換が進化しうる。今年のノーベル物理学賞のキーワードは対称性の破れでした。生物界でも、事象の非対称は通常とは異なる現象として我々の前にその姿を現します。今まで、遺伝子の流れの非対称性、と言っても、皆??の顔でした。これからは、多少わかってもらえそうです。性転換に関しては、「性転換する魚たち−サンゴ礁の海から」(桑村哲生 岩波新書)がお薦めです。(木下 栄一郎)

 

 

2008年10月 今月のいきものは、テトラヒメナです。

写真. テトラヒメナはリボザイムの発見によりノーベル賞を受賞することになった研究材料である。A)自由遊泳しているテトラヒメナ、B)大核と小核(DAPI染色)、C)接合中のテトラヒメナ、D)退化中の核 (黄色)と分化した新大小核(青)(Cと同じ細胞をアクリジンオレンジとDAPIで二重染色).

ゾウリムシやラッパムシなどに代表される繊毛虫類は、原生生物の主要なグループのひとつである。なかでもテトラヒメナという繊毛虫はDNAの全遺伝情報が解析されていて、モデル生物としての地位を占めつつある。繊毛虫は、大核と小核という2種類の核をもつことが特徴で、単細胞生物にも関わらず生殖系列と体細胞系列を空間的に分化させるという、動物などとは異なる進化戦略を採用してきた。彼らの有性生殖は接合といって、接着した細胞の間で減数分裂した小核が交換され、融合(受精)する。つまり、遺伝情報の源である核を交換するだけで世代交代を完了するのである。この受精核が分裂して新世代の大核と小核が作られるが、細胞の中では親世代の旧大核と子孫の新大核が共存するので、選択的に旧大核を退化させる必要が生じる。面白いことに、この旧大核の退化過程ではアポトーシス(細胞死)と同じ特徴が見られることから、繊毛虫はアポトーシスの分子メカニズムを核退化に流用したのではないかと考えられる。私たちはテトラヒメナを使ってその分子メカニズムの解明と、アポトーシスの進化についての研究を行っている。(東研究室 明松隆彦)

 

 

2008年9月 今月のいきものは、ヨツアナカシパンです。

写真. ヨツアナカシパン成体(左)、受精1日後の幼生(中)、受精3日後の稚ウニ(右).

海水浴にいったとき、浅い砂地の上に平べったい円盤状の貝のような生き物を見つけたり、踏んづけたりしたことがある人がいるでしょう。その死んだ殻が砂浜に打ち上げられていることもあります。これはカシパンとよばれるウニの仲間なのです。ウニは1世紀以上にわたって発生学の実験材料として利用されています。ウニの受精卵はプルテウス幼生へと発生したあと、1〜2ヶ月間プランクトンを餌として成長してから変態して稚ウニとなります。ところが、写真のヨツアナカシパン(学名:Peronella japonica)は、プルテウス型の幼生になるのですが、餌をとることなくわずか3日で変態します。私たちは、この例外的な発生様式(直接発生)を利用して、幼生から成体へのかたちの変化を調節している遺伝子を研究しています。(山口 正晃)

 

 

2008年8月 今月のいきものは、ウメマツアリです。

ari

写真. ウメマツアリの巣内の様子と女王アリ.

ウメマツアリVollenhovia emeryi はフタフシアリ亜科ウメマツアリ属の1種で、体長2-3mの赤褐色のアリです。平地から山地まで広く分布し、腐倒木の中や腐った木の樹皮の裏などに巣を作って生活しています。ウメマツアリには女王アリに翅の長い長翅型と翅の短い短翅型の2つのタイプ(多型)がいるなど、普通のアリにはない特徴がいくつかみられますが、特に働きアリが受精卵から発生し、雌繁殖虫(新女王)が未受精卵から単為発生するという繁殖様式があると考えられます。さらに雄は受精卵から雌ゲノムを除去して発生すると予測されますが、この繁殖様式では雌雄間で遺伝子の交流がないことになり、有性生殖を行う動物では極めて特殊な様式であるといえます。(大河原 恭祐)

 

 

2008年7月 今月のいきものは、トリメニア科植物です。

トリメニアの写真です

写真. 種子化石(上)と今生きているトリメニアの種子(下),そして約1億年前の地球の地図を合成したもの.

ANITA植物は今生きている被子植物の中では最初に出現したグループで、私たちの身近な植物ではスイレンやシキミを含みます。トリメニア科もANITA植物の1つで、現在の分布はオセアニア地域に限られています。私たちは最近、約1億年前には日本にもトリメニア科が生きていた証拠となる種子化石を発見し、現在のトリメニア科の分布が遺存的分布であることを明らかにしました。(山田 敏弘)

 

 

2008年6月 今月のいきものは、陸棲ラン藻イシクラゲです。

イシクラゲの写真 顕微鏡写真

写真. 芝にまざって生えているイシクラゲ(左)とその顕微鏡写真(右).

芝の中や駐車場などを注意深く見てください。雨の日にはゼリー状の黒っぽい固まり、晴天時には乾燥ワカメ状のものが発見できます。これは実は生き物で、陸棲ラン藻イシクラゲ(学術名:Nostoc commune, ノストック コミュンと読む)のコロニーです。よく見かける生物です。学校の敷地をさがすと、ほぼ確実に見つけられます。地球上のどこにでも生育しているコスモポリタンであると信じられています。乾燥に非常に強く、からからに乾いても代謝を止めて生きながらえています。学術的にはanhydrobiosis(無水生活様式)と呼ばれます。路傍の極限環境生物です。(坂本 敏夫)

 

 

2008年5月 今月のいきものは、磁性細菌です

磁性細菌

写真. 磁性細菌の1種Magnetospirillum magnetotacticum MS-1の電子顕微鏡画像

1975年、R.P.Blakemoreは、20世紀の微生物学の歴史に残るきわめて興味深い細菌を発見した。その細菌は、驚くべきことに、磁気に反応する。すなわち、その細菌の懸濁液を顕微鏡観察する時、溶液の横に磁石を置くと、その細菌はS極(自然環境では北へ)に向かって移動し、磁石を反転させると、逆向きに移動する。さらに、その細菌を電子顕微鏡で観察すると、これまでに見たこともない大きさ約50nmの黒い微粒子が細胞内に数珠状につながっていた。私たちは、この磁性細菌の磁気微粒子の構造、機能、細胞内構築について、分子レベルでの研究を行っている。(福森 義宏)